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ショパンコンクールに挑んだ若きピアニストたち(後半)

© Saki Kubota

【連載:ドイツで暮らすということ】今回も引き続き、2021年に行われた「第18回ショパン国際ピアノコンクール」にベルリン、イタリア、日本から参加された5名のコンテスタントのインタビューをご紹介します!(ショパンコンクールに挑んだ若きピアニストたち(前半)はこちら)

ドイツの一大イベントであるクリスマスが終わり、そしてお正月も明けて2022年が始まりました。年末は静かだったケルンの街にも人々が戻ってきて、いつもの日常が始まっています。

Saki Kubota© Saki Kubota

今回も、第18回ショパン国際ピアノコンクールに挑んだ若きピアニストにスポットを当て、このコンクールやドイツ留学のことを含む様々なお話をお伝えしていきます。また、2022年最初の記事になるということで、特別に5人のインタビューを一度に掲載させていただきます。

ベルリン芸術大学に在籍中の野上真梨子さん、木村友梨香さん、開原由紀乃さんからはご自身の今回のコンクールに対する熱い思いとドイツでの留学生活について、ピアニストとして活動なさっていて現在医大生でもある沢田蒼梧さんからはコンクールの舞台裏と音楽と医学の両立を決めた経緯について、そしてレオノーラ・アルメッリーニさんからはご自身のショパンに対する思いや彼女自身がいま大切にしていることなど、それぞれの方にたくさんの貴重なお話を伺うことができました。彼らのお話はどれも本当に興味深く、私自身もたくさんのパワーをもらいました。

これから留学なさる皆さんにはエールを、そして既に留学なさっている皆さんには心に寄り添ってくれるようなメッセージを受け取ってもらえたら嬉しいです!
(取材・文:久保田早紀)

Mariko Nogami

【プロフィール】
千葉県出身。2002年青少年ショパン国際ピアノコンクール日本人初の第1位。第16回、第17回ショパン国際ピアノコンクール ディプロマ。第1回いしかわ国際ピアノコンクール大学・一般部門金賞。第5回野島稔・よこすかピアノコンクール第1位。アルトゥール・シュナーベルコンクール (ドイツ)第2位。2018, 2020年度ロームミュージックファンデーション奨学生。桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部を共に首席で卒業。ベルリン芸術大学大学院修了。2022年春に同大学で国家演奏家資格を取得し完全帰国予定。これまでに下田幸二、高橋多佳子、野島稔、ビョルン・レーマンの各氏に師事。(SNSアカウント:Instagram / Twitter / YouTube

これまでに出場したショパンコンクールについてもたくさんのことを語ってくれた彼女は、とてもしっかりと自分の意志をお持ちの方で、音楽に対する彼女の真剣な想いからはこちらもパワーをもらいました。

【インタビュー】
久保田(聞き手)
野上さん(話し手)

― 今日はお時間を作っていただき、ありがとうございます。野上さんは前々回、そして前回(第16回、第17回)とショパン国際ピアノコンクールに参加されていますが、今回のコンクールはいかがでしたか?

どの回もそれぞれ違いはありました。最初に受けた時は19歳のときだったので、コンクールのための準備が結構大変だったことを覚えています。前回受けた時は、その前の経験があったのでレパートリーの準備の部分ではあまり苦労しなかったのですが、実際にワルシャワに入り現地でたくさんのピアニスト達の演奏を聴くことで、コンクールで自分に足りないものが見えてきたのを覚えています。そして今回は、留学先であるドイツからの参加でした。実家暮らしからドイツでの一人暮らしになったり、師事する先生が変わったり、環境がガラッと変化した中での参加でしたね。

― パンデミックの影響でコンクールの開催が1年延期になったことについてはいかがでしたか?

プログラムの見直しや曲をもう一度練り直す、と言った点では延期になって良かった点でした。でもいつも頭の片隅にはショパンコンクールのことがあって、度重なる延期に「一体いつ開催されるのだろう」と不安になった時期もありました。今まで様々なコンクールを受けてきましたが、これは初めての経験でした。また、ずっとショパンのプログラムだけを弾いていることもしんどかったので、他の作曲家の作品なども弾いて気持ちをリフレッシュしたりもしていました。

― パンデミックが始まった時はショパンコンクールの準備期間中だったと思いますが、その頃はどのように過ごされていましたか?

欧州でロックダウンが始まった当初は日本にいたのですが、それからベルリンに戻ってきて、コロナ助成金でいただいたお金でマイクや機材を揃え、演奏の録音や編集をしたりして活動を続けていました。ただ在宅勤務の人が増えたこともあり、自宅でピアノ演奏をしていたら近所から苦情が来て大変なときもありました。ほかには、自分の時間が増えたことによって「これから演奏家としてどのように活動していこうか」とこれまで以上に自分の未来について真剣に考えて過ごすようになりました。

― 助成金でマイクや機材を揃えて演奏の録音や編集をしながら困難な時期でも音楽活動を続ける姿、素晴らしいです!ショパンやショパンコンクールにどのような魅力があると思いますか?

ショパンの曲だけで全ステージを弾き通すコンクールは本当に特別なコンクールだと思います。彼の母国ポーランドでコンクールが行われ、ショパンを愛する多くのファンがいて、ワルシャワの街も一体となってコンクールを盛り上げて世界中から注目を集めている、とても魅力的なコンクールだと思います。

― ドイツ留学についてお伺いしたいのですが、留学先をドイツに決めた理由、そしてドイツに来た時の最初の印象はいかがでしたか?

小さい頃から留学にとても興味があり、桐朋学園大学に在籍していたときも海外の先生のマスタークラスを受けたり、夏には海外の講習会などに積極的に参加していました。ヨーロッパの風土や街の雰囲気が私好みだったこと、私の先輩方がベルリン芸術大学にたくさん留学されていたこともあり、そこを視野に入れて考えていました。ちょうどその頃、ベルリン芸術大学教授のレーマン先生が日本でマスタークラスをした際に参加させていただき、先生のレッスンが素晴らしかったので「この先生の元で学びたい!」と強く思ったことが受験を決めるきっかけになりました。

またドイツに来て初めに思ったことは、クラシックコンサートの出演者のラインナップが想像以上に素晴らしいことでした。著名な音楽家を肌で感じられたり、街並みも綺麗で「日本人が初めて海外に来ても比較的住みやすい街なのかな」とも思いました。

― ドイツ語はどのように学びましたか?

大学在学時に授業で少し学んでいたのと、東京で語学学校にも通っていましたね。また受験準備ビザを利用して受験の前にドイツに来て、ベルリンのドイツ語学校にも通っていました。

― こちらに来ても語学学校に通られていたのですね。日本とドイツで語学学校に何か違いなどは感じられましたか?

生徒が多国籍なので皆さんとても活発的で、あまりドイツ語が話せなく文法もぐちゃぐちゃでもずっとおしゃべりをしながら先生とも楽しそうに話している姿を見て、「留学する人ってコミュニケーション能力がすごいな」と身をもって感じました。日本の学校ではみなさん大体が静かだったので、そこは大きく違いました。

― 留学中、特に大変だったことなどはありますか?

私はアパート関係で結構苦労をしています。最初にアパートを探したときはまだ学生ではなかったので、とにかくピアノが置けて練習ができる部屋を探していました。部屋は見つかってそこに引っ越したのですがそこがとんでもない家で、暖房が無かったりシャワーがあまり使えなかったので困りました。大家さんにそのことを相談したら「隣のアパートの部屋でシャワーは浴びて良いから」と言われて行ってみると、そこには男性が一人住んでいたことに驚きました。寒い中、隣のアパートに行くのも面倒なので、結局自宅で工夫してシャワーを浴びることになりました。一応チョロチョロとお湯は出たので、それと合わせて大きなバケツにお湯を張ってシャワーを浴びていましたが、慣れてくるとそれも大丈夫になってきました。(笑)

― それは本当に大変でしたね。ドイツで様々な経験をしてこられた野上さんは、これからどのような演奏家を目指していかれたいですか?

「将来的に日本で活動していきたい」という思いから今春に完全帰国します。全く不安がないと言ったら嘘になりますが、今まで培ってきた経験をもとにこれからも頑張っていきたいと思っています。また今後は桐朋学園大学のピアノ伴奏嘱託演奏員になるので、ソロ活動に加えて室内楽の幅も広げていきたいと思っています。

― 日本に帰国されても応援しています!では最後に、これから留学を考えている方々に向けて何かメッセージをお願いいたします!

ドイツに留学すると素晴らしい演奏会に気軽に行けますし、たくさんの素晴らしい人達との出会いもあります。私自身、留学したことによって視野も広がりました。ドイツへの留学を決断するのに最初は勇気がいりましたが、こちらに5年程暮らしてみて思うことは「やはりドイツに来て良かったな」ということです。まだ留学に迷っている人がいたら、是非海外に出てたくさん経験をして欲しいと心からそう思います。

Yurika Kimura

【プロフィール】
北海道岩見沢市出身。これまでに宮澤功行、宮澤陽子、菊地麗子、石井克典、鈴木弘尚の各氏に師事。現在、ベルリン芸術大学修士課程に在籍しMarkus Groh氏に師事。第8回ロザリオ・マルチアーノ国際ピアノコンクール(オーストリア)グランプリ受賞。2020年ベルリン・フィルハーモニー室内楽ホールにてジョイントリサイタルに出演。これまで東京フィルハーモニー交響楽団、クロアチア放送交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、札幌交響楽団等と共演。2019年初のアルバム「Carnaval」をKNS Classicalよりリリース。(SNSアカウント: Twitter / Facebook

インタビューのためにベルリン芸術大学の仲間に声をかけてくれる程の気配り上手な方で、コンクールのことからドイツ留学のことまで詳しくお話をしていただきました。

【インタビュー】
久保田(聞き手)
木村さん(話し手)

― 今回はお時間を作ってくださり、どうもありがとうございます。木村さんは前回(第17回)のショパン国際ピアノコンクールにも参加されていますが、今回の参加にあたって前回と何か変化した点などはありましたか?

前回チャレンジした時はまだ留学する前でしたので日本で準備してからの参加になりましたが、今回は留学先であるベルリンからの参加でしたので、ベルリン芸術大学の教授の元でしっかり準備して参加したことが自分の中では大きな違いです。特に今回はコロナ禍ということもあり、コンクールの前にコンサートなどで曲を披露することができなかったので、正直言うと今回の方がそういった部分で不安な面はありました。

― ドイツでもコンサートが開催できない期間が長く続いて、演奏者にとって厳しい時期でしたよね。パンデミックが始まった時はちょうどショパンコンクールの準備期間中だったと思いますが、その頃はどのように過ごされていましたか?またコンクールが1年延期になった点についてはどのように考えていましたか?

その頃は大学の休み期間を利用して一時帰国していました。でもドイツに戻れなくなってしまったので、日本からオンラインでレッスンを受けて過ごしていました。コンクールが1年延期になり少しホッとした時もありましたが、「この延期になった1年で何ができるか」と自分に問いかけて、なるべくポジティブに捉えながら準備に励んでいました。

― 日本にいてもドイツの教授からオンラインでレッスン受けられたことは良かったですね。木村さんにとってショパンやショパンコンクールの魅力とは何だと思いますか?

歴史が長いコンクールなのと、有名な巨匠も沢山生み出している世界的なコンクールということです。ショパンの曲だけで構成されるコンクールという点も特別だと思います。また小さい頃から慣れ親しんできた大好きな作曲家の曲を掘り下げて勉強できることも私個人的には魅力の1つです。

― ここで少しドイツ留学についてお伺いしたいのですが、留学先をドイツに決めた理由は?

人生で初めて訪れた海外がドイツで、ベルリンで演奏をさせていただいた時の印象が良かったのと、今も師事しているグロー先生のレッスンを受ける機会があり、そのことがきっかけで「ベルリンに留学する!」と決めました。

― ドイツに来て最初にどのような印象を持ちましたか?

冬にドイツに来た際に、クリスマスマーケットが開催されていてとても綺麗だったのを鮮明に覚えています。特にベルリンは多国籍の方が多く住んでいる印象があるので、日本人として生活していて街にもすごく馴染みやすく、住みやすいところだなと感じました。

― 留学する前に日本でドイツ語を学んでいましたか?

大学の4年時にドイツ語の授業をとっていました。あとはGoethe-Institut Tokyo (ゲーテ・インスティトゥート東京) に通っていました。

― 留学中に大変だったことはありますか?

基本的にドイツは治安は良いのですが、一度スリにあったことがあります。その日はちょうどコンサートを聴きに行く予定で、コンサート会場へ向かう途中でした。道中で気づいたらバッグも開けられてしまっていたんです。「あぁ、もうだめか…」と思ったら犯人に取られたのは小さなポーチだけで、犯人はそれをお財布だと思ったらしいのですが、ポーチだったので「要らない」ということで私のところまで返しに来ました。(笑)

― そんな犯人もいるのですね!(笑)これまでにドイツで様々なご経験をされている木村さんですが、これからどのような演奏家を目指していかれたいですか?

昨年の夏にマスタークラスでディーナ・ヨッフェ先生にレッスンしていただいた際に、「もっと他の演奏家と共演して、たくさんのことを学びなさい」とアドバイスをいただきました。これを機に、これからはソロ活動だけでなくもっと室内楽もやりながら両立し、たくさんの曲を学び、音楽家としてさらに成長していきたいと思っています。

― では最後に、これから留学を考えている方々に向けてメッセージをお願いいたします!

海外に来たら良いことから悪いことまで、絶対に日本では出来ないような経験を得られ、それが留学の醍醐味だとも思います。またその経験が自分の自信にも繋がっていくと思うので、ぜひ皆さんには前向きに一歩踏み出して欲しいです!

Yukino Kaihara

【プロフィール】
広島県福山市出身。2015年ロン・ティボー・クレスパン国際コンクール セミファイナリスト。第14回東京音楽コンクール ピアノ部門 第3位。これまでに大友直人、渡邊一正、現田茂夫各氏、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団など著名な指揮者、オーケストラと共演。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、東京藝術大学を経て、同大学大学院 を首席で修了。同大学より藝大クラヴィーア大賞、台東区長賞、クロイツァー賞、大学院アカンサス音楽賞を受賞。ピアノを髙橋紀子、小嶋素子、白石光隆、伊藤恵の各氏に師事。現在、ベルリン芸術大学にてビョルン・レーマン氏に師事。(SNSアカウント:Instagram / Facebook

今回の取材にとても熱心に応えてくれた彼女の話す言葉一つ一つからは、今のありのままの想いがまっすぐ届いてきたのと同時に、母国やふるさとへの愛を感じる温かみのあるインタビューとなりました。

【インタビュー】
久保田(聞き手)
開原さん(話し手)

― 今日はお時間を作っていただき、ありがとうございます。開原さんは今回のショパン国際ピアノコンクールにどのような気持ちで参加されましたか?

ショパン国際ピアノコンクールはピアノを学んでいる多くの人が憧れるコンクールだと思いますが、私もこれまでに開催されたこのコンクールのDVDをたくさん集めて、何度も繰り返し観ては「いつかは出たい!」と思い続けるほど強く憧れを抱いていました。年齢制限のことを考えると今回が最後のチャンスになると思い、思い切って今回参加してみました。

― コンクールがコロナ禍のため1年延期になった時の心境はいかがでしたか?

コンクールを終えて振り返ってみると、自分自身を思い詰め過ぎていたのかもしれないと思うようなときもありました。長い準備期間でしたし、コンクール前のレッスンでも教授に「どうしたの?大丈夫?何かあった?」と声をかけられてしまうくらい、周りから見るとかなりのプレッシャーを感じているのが出ていたのかもしれません。(笑) でも先生は「きちんと準備したのだから大丈夫。自分で勝手にストレスを感じないようにね!」といつも優しく声をかけてくださり、その先生の言葉には毎回救われていました。

― とても優しい先生ですね。ちょうどパンデミックが始まった時はコンクールの準備期間中だったと思いますが、その頃はどのように過ごされていましたか?

大学が休みだったということもあり、日本での演奏活動と友達の結婚式のためにちょうど日本に帰っていました。その後さらに状況が悪化してドイツに戻れなくなってしまったのですが、このことによって今までより家族との時間が増えたんです。私は出身が広島で、15歳の頃に上京してから長い時間親元を離れて生活していたのですが、この延長された日本での滞在期間は、これまでの家族と会えていなかった時間を取り戻せたかのような、そんな時間にもなりました。あとは「ベルリンに戻ったらどんなことをするべきか」とこれまで以上に、これからの人生についても考えていました。でも考えても考えても先が見えず不安が募るばかりで、その頃はあまりポジティブな気持ちではいられなかったのですが、唯一の心の支えが「ショパン国際ピアノコンクール」でした。

― コンクールが心の支えとなって、どんなときも音楽と共に過ごされてきたのですね。開原さんはショパンやこのコンクールに対して、どのような魅力をお持ちですか?

ショパンは好きな作曲家の中の一人です。ワルシャワで一度インタビュアの方に「日本人はどうしてそんなにショパンが好きなの?」と聞かれたことがあるんです。その時は何と答えたかはあまりよく覚えていないのですが、今になってよく考えてみると、あの独特で美しいショパンの旋律は私たちの心にスッと入ってきてくれる気がしていて、「日本人にとってはとても共感しやすいのかな」と思います。そんな彼の曲からは、どれをとっても「彼の生涯を間接的に感じることができる」ことも魅力だと思います。他の作曲家で情景などをイメージすることができたとしても、その作曲家の生涯をイメージできることってなかなかないと思うので、そこも含めて「ショパンってとても魅力的で、何か特別なんだなぁ」と私は思います。

― 話は変わり、ここからは留学について少しお伺いします。留学先をドイツに決めた理由を教えていただけますか?

高校生の頃から漠然と「いつか留学してみたいな」という気持ちはありました。ただ海外の先生のレッスンを色々と受けてみても「自分に合うかな?ちょっと違うかな?」なんて思うこともあったり、日本で師事していた先生からもまだたくさん学ぶこともあったので、なかなか留学する決断ができませんでした。でも初めてパリを訪れて、ヨーロッパの文化や街の雰囲気が日本と大きく違うことを肌で感じたことがきっかけで「やっぱり留学したいな」という気持ちが強くなりました。ちょうどその頃、日本でベルリン芸術大学の教授であるレーマン先生の公開レッスンを受ける機会があり、その時のレッスンの中で「自分にな足りないものをもっと教えてもらえそう」と思い、入試を受けてみることにしました。

― ドイツに来た時の印象などはいかがでしたか?

初めてドイツに来て持った印象は「治安の良い街だな」ということです。パリに行った際に、一度バックのチャックを開けられてしまったこともありました。留学先の候補にフランスも入れていたのですが、その時の体験から「音楽を学ぶことだけでなく、安心して生活していけることも留学には大切なことだな」と思い、ドイツを選びました。フランスと比べて学費・家賃・物価など、どの点からみてもベルリンは住みやすいという印象を受けました。

― ドイツ語は以前から学んでいましたか?

大学在学中に周りの友達がドイツ語の授業を取っていたこともあり、ドイツ語をその頃から学んでいました。あとはベルリン芸術大学の入学が決まってからこちらに来るまでの間に日本で語学学校に通っていたのと、ベルリンに来てからも現地の語学学校に通っていました。

― 日本とドイツで語学学校に違いなどは感じましたか?

日本だと授業が終わったらみなさんすぐに帰宅していたのですが、ドイツだと授業が終わったら「この後ビアガーデンに行こうよ!」となったりして、留学生のみんながとても陽気なことに驚きました。でもそういう時間を通じて友達ができたり、授業以外でもドイツ語に触れる機会が多くあったので、「もっと頑張って話せるようになろう!」と自然と思える環境になっていたことは、日本で学んでいた時との大きな違いです。

― 留学して大変だったことなどはありますか?

住んでいたアパートの大家さんとトラブルになったことですね。最初は親切なロシア人の大家さんだったのですが、そこから引っ越す時に多額のお金を請求されてびっくりしました。

― えぇ!それは大変でしたね。

はい。弁護士さんを通して問題を解決してもらうことになったのですが、これには本当に困りました。

― 無事に問題が解決してよかったです。では、これからの開原さんご自身の演奏活動等についてもよろしければ教えてください。

出身地の広島に滞在する期間が長かったこともあって、今までになかった地元のコミュニティーとの関わりを持つことができました。地元で演奏する機会はあまりありませんでしたが、これからはもっと地元の人たちに気軽に聴いてもらえるようなコンサートなどを企画して、地元とクラシック音楽のつながりをもっと深めていきたいと考えています。

― とても素敵ですね!最後にこれから留学を考えている方々に向けてメッセージをお願いします!

今はまだコロナ禍で大変な時期だとは思いますが、留学を考えている皆さんには躊躇せず世界に羽ばたいていって欲しいです。こちらに来たらここでしか経験できないことが山ほどあります。その経験からご自身の視野も広がり、視野が広がれば「今度自分がどのように生きて行きたいか」ということも明確になってくると思います。留学したらきっと想像以上のことが得られるはずです。ためらうことなく、やりたいことにチャレンジしていって欲しいと思います。

Sohgo Sawada

【プロフィール】
6歳よりヤマハ音楽教室でピアノを始め、15歳より関本昌平氏に師事。第18回ショパン国際ピアノコンクール本大会二次審査進出。第73回ジュネーブ国際音楽コンクール最年少ベスト16入選。
仙台国際音楽コンクール出場、全日本学生音楽コンクール全国大会中学校の部第2位、ピティナ・ピアノコンペティションG級金賞。これまでにポーランドシレジアフィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、大阪交響楽団、中部フィルハーモニー交響楽団、大府市楽友協会管弦楽団と共演。東海中学校・高等学校を6年連続首席で卒業し、現在名古屋大学医学部医学科5年生。(SNSアカウント:Twitter / Facebook

たくさんの聴衆からサインを求められる程、コンテスタントの中でもひときわ人気を集めていた沢田さんに、音楽家としての心構えや医学と音楽を両立させるポイントについても伺いました。
*この取材は3次予選後に行われたものです

【インタビュー】
久保田(聞き手)
沢田さん(話し手)

― 今日はお忙しいところお時間を作っていただきありがとうございます。どのステージも本当に素晴らしかったです!特に1次予選のご自身がとても楽しんで演奏されている姿が印象的でした。沢田さんは、それぞれのステージをどのように感じていらっしゃいましたか?

2次予選がかなり緊張していて、あれは少し異常でしたね。あの日は朝からずっと緊張していて、地に足がついていないような感じがありました。1次予選では「純粋にこのステージを楽しもう!」と思ったのがよかったのかもしれません。1次の方が達成感はありました。

― 今回のコンクールではカワイのピアノを選ばれましたが、何か決め手となったものはあったのでしょうか?

ピアノ選定については、鍵盤のタッチと音色でカワイに決めました。僕の先生のお宅にShigeru Kawaiのピアノがあって弾き慣れていたこともありますが、何と言っても音色がとても好みなんです。選定の際に、たまたま会場に反田恭平さんもいらっしゃったので、客席で聴いた感想などを伝えていただいたりしました。

― 沢田さんはコンクール期間中、ほかのコンテスタントの演奏も熱心に聴いていらっしゃいましたが、何か印象に残っていることなどはありますか?

全体を通していくつか思った点はあります。自分が良いと思っている演奏とほかの人が良いと思う演奏が違ったりすると「なぜこの人の演奏が評価されるのか」とか「自分の好みとは別に他の評価軸を持っていないといけないな」とも思いました。その評価基準や判断基準というものをきちんと理解することが必要だと思うので、そのことが今後の僕の課題になりましたね。

― 沢田さんはピアニストとして活動しながら医大生として医学の道も志していますが、この2つを両立してこられた理由を伺ってもよろしいですか?

医学の方は、小2のときに喘息を発症し頻繁にクリニックに通っており、頼りがいのある主治医に憧れを抱くようになりました。その経験もあって、進路を考えるようになったときに医師がまず頭に浮かび、医師を目指そうと決めて今に至ります。
ピアノの方は、2歳のときに地元のヤマハ音楽教室に入り、小学校に入学するときにピアノの個人レッスンが始まりました。家にアップライトピアノがあったので、小さい頃はそれを楽しく弾いて遊んでいましたね。元々ピアニストになりたいと思っていたわけではなく、家族に音楽家もいません。純粋にピアノを弾くのが楽しくて続けていた感じでした。
ただ、実は中学2年生の時にはピアノを辞めることも考えていて、その頃ピティナJr.G級が控えていたため、「そのコンクールが終わったらキッパリ辞めよう」と思っていました。ところが全国大会の舞台裏や楽屋、事前にあったマスタークラスで同年代の参加者同士で仲良くなることができ、とても楽しい時間を過ごせたことがきっかけで、「またみんなと同じステージに立ちたい、やっぱりピアノを続けていってみよう」と思えるようになりました。今でも忘れられない程の良い思い出になっています!
またピアノに対して前向きになった僕に、当時の先生が「君が医者になりたいのは知っているけれど、医者を続けながらでもピアニストになることはできるよ」と背中を押してくださり、医学と音楽の両方の道に進む決断をしました。15歳からお世話になっている関本昌平先生も僕の生き方を初めから肯定してくださり、レッスン時間などを含め、両立できるように最大限のサポートをしてきてくださいました。こういった環境がモチベーションになって、現在まで続けてこられています。

― 沢田さんのように何かほかのことも同時に学びながらピアニストを目指す人もこれから増えてくるかもしれませんが、2つのことを両立させていくためのコツなどがあれば何かアドバイスをお願いします。

それぞれ気が向いたときにやることですね。僕の場合は、自分の気分に従って練習したいときにピアノを弾く、または勉強したいときにそれをするといった感じです。無理やり時間を決めて「この時間帯は練習する」とするのではなくて、目標を設定したらそこに到達するまでにはどれくらいの努力が必要なのかを逆算して、それにだんだんと近づけるように努力します。この努力している時に辛いと思ったらダメなんです。自分が楽しいと思える範囲で行うことが大切ですね。これには必ず「好き」という気持ちと「努力できる力」が必要になると思います。僕もピアノを始めてから今まで「好き」という気持ちでここまでこれたので、この気持ちはずっと大切にしていきたいと思っています。
二つのことを両立させようとするとどうしても時間が足りなくなってきて大変なときもありますが、それ以上に学べることや良いこともたくさんあります。今後、音楽の世界でもそれが浸透していったら、また状況も変化してくるでしょうね。

― ドイツにいらっしゃったことはありますか?

はい、高校生のときにドイツにピアノコンクールを受けに行ったことがあります。コンクールが終わり日本へ帰国する時に、フランクフルト空港にピアノが置いてあったので、コンクールでは上手く弾けなかった曲をポロポロと弾いていました。すると周りに人が集まってきて「もっと弾いてくれ!」といった感じでみんなが喜んでくれて、言語が違う人々とピアノを通してコミュニケーションをとれたことが何よりも嬉しかったですね。今でも乗り継ぎでフランクフルト空港に行くとその時のことを思い出して、ピアノがないか探してしまいます。残念ながら、ターミナルの違いなのか見つかったことがないのですが…

― 特にドイツにはクラシック音楽好きな人が多いかもしれませんね。最後になりますが、沢田さんが思う良いピアニストとは?

説得力のある演奏で曲の持つ力を最大限に引き出すことができる人でしょうか。そして他者にどのように判断されても貫き通せる唯一無二の個性を持ち合わせていて、聴衆の予想を超える圧倒的な表現ができる人ですね。

― 今回はインタビューにご協力いただき、本当にありがとうございました。これからも応援しています!

Leonora Armellini

【プロフィール】
イタリア・パドヴァ市生まれ。2009年カミッロ・トーニ国際ピアノコンクール(イタリア)第1位、2010年第16回ショパン国際ピアノコンクールジャニナ・ナウロッカ賞、2021年第18回ショパン国際ピアノコンクール第5位受賞。これまでにヴェローナ・アレーナ管弦楽団、ミラノ・スカラ座管弦楽団との共演を含む、世界有数のオーケストラとの共演も多数。室内楽にも熱心で、フォルテピアノ・トリオやデュオ・ピアニスティコ・ディ・パドバで定期的に演奏しており、AMARトリオのメンバーとしてイタリア音楽ジャーナリスト協会の室内楽部門で権威ある「アッビアーティ賞」を受賞。現在、イタリア・アドリア音楽院「アントニオ・ブッツォッラ」で、講師として後進の指導にも力を入れている。(SNSアカウント:Instagram / Facebook

持ち前の明るいキャラクターでコンクール期間中もすごく人気があった彼女は誰にでも分け隔てなくオープンに接してくれる方で、ショパンやこのコンクールへの思いを熱烈に語ってくれました。
*この取材は3次予選後に行われたものです

【インタビュー】
久保田(聞き手)
アルメッリーニさん(話し手)

― 今日はお忙しい中、取材を受けてくださりありがとうございます。ここまでの各予選ステージで演奏されてきて、それぞれに何か違いはありましたか?

1次予選で弾いた時は大きなショックというか、とても驚きました。久しぶりに聴くこのホールの響きと、たくさんの聴衆の前で演奏するという感覚が久々で驚いてしまったのかもしれません。1次とは違って、2次予選ではとても落ち着いて演奏することができたので、一番良い手応えを感じています。2次のプログラムは既に何度も演奏している曲が多かったこともあり、1次でエチュード(練習曲)を弾き終わった瞬間、もう何でもできるような解放感もありました。(笑)

― アルメッリーニさんは第16回ショパン国際ピアノコンクールのセミファイナリストですが、前回と今回で何か変わった点などはありましたか?

もう全く違いました!私自身11年前とは全く違う人間だという感じがします。(笑) この11年間でコンクールは2、3回しか受けていませんが、コンサート活動を続けてきて演奏経験をたくさん積んできたこと、師事する先生が8年前から変わったということもあるかもしれません。でも一番大きく変化を感じるのは、以前よりもたくさんの人たちと関わりを持つようにしたり、友達と話す時間をたくさん作ったりして、そういう時間が私にとってすごく大切だということが実感でき、それがあるから心から音楽を楽しめるようになったと思います。

― 今回のコンクールでは1次予選から全てイタリアのピアノメーカー「ファツィオリ」を選んでいらっしゃいましたね?

コンクールが始まる前にピアノ選定の時間がありましたが、一人当たり試弾できる時間が決まっていて大変でした。私にとってはファツィオリが一番綺麗な音色だったのでそれに決めました。

― アルメッリーニさんが弾くファツィオリの響き、とても好きです。3次予選での演奏を会場で聴かせていただきましたが、透明感のある優しい響きが会場全体を包み込んでいて、まるで別世界にいるようでした。

ありがとう!とても嬉しいです。

― パンデミックの影響で本来2020年に行われるはずだったコンクールが、1年延期されて2021年に開催されたことについてはどのように感じていましたか?

私にとってはこの1年の延期はとても良かったです!音楽の面から私生活においてまで、この1年で全てを整えることができた時間になりました。ロックダウンになって家にずっといなければいけなかったときも、家族や友人とこれまで以上にコミュニケーションを取る時間が持てたり、音楽以外の自分の時間もたくさん持てたり、そういう時間が私の演奏に良い効果を与えてくれたような気がします。

― 音楽以外の時間を充実させること、音楽家にとってとても大切なことでもありますよね。では最後にショパンを演奏する上で大切にされていることはありますか?

彼の傷ついた心を良く理解して演奏することだと思います。彼の書いた曲はどれもメッセージ性があるため、それを心で感じ取って、強い意志を持って表現することがすごく大切です。ショパンはいつも内に秘めている感じもあるけど、時には解放してあげることも必要だと思います。でも一番大切なのは彼の音楽に対して謙虚でいること、そしてそれを素直に受け入れることです。

久保田早紀 プロフィール

Saki Kubota

国立音楽大学附属中学校・高等学校を経て、同大学音楽学部演奏学科卒業、及び鍵盤楽器ソリストコース修了後、渡独。ケルン音楽大学大学院修士課程ソリスト科に入学し、ヤコブ ・ロイシュナー教授の元で 研鑽を積む。 同大学院 を最優秀の成績で 修了後、デ トモルト音楽大学にてさらなる研鑽を積み、2017年ド イツ国家演奏家資格を取得。
第28回ソレイユ音楽コンクールピ アノ部門にて第1位、及び音楽現代新人賞を受賞。東京文化会館にて受賞記念コンサートに出演し、ウィーン国立音楽大学夏期国際音楽アカデ ミー/ウィーン・プ ラハ・ブ ダ ペ スト(ISA)に奨学生として招待される。2013年イスキア国際ピ アノコンクール(イタリア)にて第1位を受賞の他、国内外のコンクール等で 多数受賞。日本学生支援機構(JASSO)より大学在学中の業績を認められ、平成22年度優秀学生顕彰文化・芸術分野奨励賞を受賞。
近年では、ポ ーランド にてToruń Symphony Orchestraとシューマンのピ アノ協奏曲を共演し、好評を博す。また日本のみならず、国内外にてソロ及び室内楽のコンサートにも多数出演。

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