留学の先にある未来 ― 沖澤のどか(指揮者)―

© 京都市交響楽団
【連載 : ドイツで暮らすということ】みなさん、こんにちは。ここでは「留学先にある未来」と題して、ドイツにゆかりのある方、ドイツ留学を経験された方、そして現在ドイツで音楽分野に携わっている方にスポットを当てたインタビューをお届けしています。今回のゲストは世界的指揮者の沖澤のどかさんです。沖澤さんは、現在ドイツを拠点に世界中で活躍する大人気指揮者の一人です。

ベルリンでの留学時代から現在のお仕事に至るまで、貴重なお話をたくさん伺いました!
【留学編】と【仕事編】の2つに分けて、たっぷりとご紹介していきます!

【仕事編】はこちらをクリック

今回のゲスト・沖澤のどかさん

© Felix Broede

2019年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝、併せてオーケストラ賞と聴衆賞を受賞。2018年東京国際音楽コンクール<指揮>優勝。第28回(2020年度)渡邉曉雄音楽基金音楽賞、第21回(2022年度)齋藤秀雄メモリアル基金賞 指揮部門など受賞多数。セイジ・オザワ松本フェスティバル首席客演指揮者。ミュンヘン交響楽団2022/23シーズンのアーティスト・イン・レジデンス。故郷の青森で開催される「青い海と森の音楽祭」芸術総監督。2020-22年ベルリン・フィル・カラヤン・アカデミー奨学生、及びキリル・ペトレンコ氏のアシスタント。2025/26シーズンはロンドン・フィル、ドルトムント・フィル、ボストン響へデビュー。日本でも読響、都響、N響などへ定期的に客演。東京二期会では2020年レハール『メリー・ウィドー』、2025年ビゼー『カルメン』を指揮。
青森県生まれ。幼少期からピアノ、チェロ、オーボエを学ぶ。東京藝術大学で高関健、尾高忠明両氏に師事して修士号を取得。2019年ハンス・アイスラー音楽大学ベルリンでクリスティアン・エーヴァルトとハンス・ディーター・バウム両氏のもと第二の修士号を取得。ベルリン在住。2023年4月から京都市交響楽団第14代常任指揮者に就任。

【リンク】
京都市交響楽団
セイジ・オザワ松本フェスティバル
青い海と森の音楽祭

【留学編】

以下 インタビュー
久保田(聞き手)
沖澤さん(話し手)

―本日はお忙しい中インタビューの時間を作っていただき、本当にありがとうございます。

いえ、とんでもないです。どうぞよろしくお願いします!

―早速ですが、沖澤さんが音楽を始めたきっかけを教えてください。

子どもの頃からピアノ、チェロ、オーボエを演奏していました。地元青森のジュニアオーケストラでチェロを弾いていたこともあり、当時からオーケストラの響きが好きでしたね。音大進学を決めたのは割と遅くて、高校2年生の終わりだったんです。オーボエで東京藝術大学に進みたい気持ちがあったのですが、当時は高校のブラスバンド部の楽器を借りて演奏していたため、進学のために「楽器を買ってほしい」と親に言い出しにくくて・・・。それで、「指揮棒だったら自分でも買えるかな」と思ったこと、そしてみんなで一緒に演奏することが何より楽しく、好きだったので「指揮者もいいかな」と思いました。

―3つも楽器を演奏なさっていたのですね。すごい!

でもピアノはプロを目指せるレベルではないな、と感じましたし、チェロは練習があまり好きではなかったんですよね。そのため上達するのもゆっくりでした。当時は本当にオーボエにのめり込んでいましたね。

―指揮科で東京藝術大学へ進学されますが、その後の留学先をドイツに決めた理由はありますか?

まず学費がほとんど無料ということが魅力的だったのと、私の先輩である指揮者の角田鋼亮さんが既にベルリンのハンス・アイスラー音楽大学に留学されていて、当時音楽留学について相談した際に、指揮科の先生を紹介してくださったことがきっかけです。それから自分でも色々下調べをしました。モーツァルテウム音楽大学夏期国際音楽アカデミーに参加した際には、そこの参加者で既にヨーロッパへ留学している人達もたくさん来ていたので話を聞いたり、そのアカデミーで出会ったペーター・ギュルケ先生にも相談して、助言をいただいたりしました。

―それでドイツ・ベルリンになさったのですね。ドイツは学生にとって本当に恵まれている国ですよね。ゼメスターチケットでその州の電車が乗り放題だったり、素晴らしい演奏家のコンサートチケットが学生券だとすごく安く購入できたり。

そうなんですよ!なので、結果的に日本で音大生として暮らしていた頃より、ドイツに来た方がお金があまりかからなくて「もっと早く来ればよかったな」と思っていました。(笑)

―ドイツ語は、あらかじめ勉強されていたのですか?

大学の授業でドイツ語の初級・中級までは勉強していましたが、会話は全く勉強していませんでした。ハンス・アイスラー音楽大学を受験する際に「ドイツ語のB1の証明が必要」と募集要項で見たので、半年くらい本腰入れて勉強したのですが、なんと蓋を開けてみたら修士課程はB1を提出する必要がなくて・・・(笑)。

―わぁー!でも証明書を持っているに越したことはないですもんね。

そうですね。学生間でのやり取りはほぼ英語でしたが、先生とはカタコトのドイツ語でコミュニケーションをとっていました。

―英語とドイツ語両方使われていたのですね。師事なさる先生は、どのように決められたのでしょうか?

先輩の角田さんが紹介してくださいました。クリスツィアン・エーヴァルト先生という方なのですが、受験の直前に彼のレッスンを聴講させていただいて、その後私の指揮も少し見ていただきました。そこから先生のもとで学びたい、ということをお伝えして、入試を受けた形になります。

―ドイツ音大受験まで様々な準備をなさったと思いますが、これはやっておいた方が良いよ!と思うことはありますか?

日本の音楽大学は分からないのですが、ドイツの音楽大学の場合、大学のウェブサイトに教授陣のメールアドレスが公開されています。そのため、どなたかを紹介してもらえなかったとしても、メールを送って先生とコンタクトを事前に取ることが可能です。そして、レッスンの聴講やVorspiel(先生の前で一度弾いてみせる)などを申し込んでみた方が良いと思います。そうすると、その先生がどんな方で、どのようなレッスンをするのかも分かりますし、大学の様子も見ることができますしね。

―以前DAAD東京事務所の留学相談でいただいた質問で「現地の気候・気温による変化で楽器の音が変わらないように、演奏する日よりも早めに現地入りした方が良いですか?」という質問をいただいたのですが、沖澤さんはどのように感じますか?

それは楽器によって変わってくると思いますが、何日か調整日はあった方が良いと思います。楽器のためだけでなく、ご自身の体調面においても時差ボケを治したりすることをお勧めします。私は、受験の2週間前にドイツに入って語学学校に通っていました。午前中はドイツ語を学校で学び、夜は当日券を購入して演奏会に行ったりしながら少しずつドイツでの生活に自分を慣らしていって受験した、という感じです。

―では、これはもっと準備しておけばよかった・・・と感じたことはありますか?

あ〜、もうこれは断然語学の勉強ですね。もし、入学当初からドイツ語がすんなり分かっていたら、先生方とももっとコミュニケーションが取れたと思います。また、劇場に就職したい場合は語学ができないと太刀打ちできないため、ドイツ語はもう少し早く準備しておくべきだったなぁと思っています。音大の授業は英語での授業もありましたが、楽曲分析などの授業は全てドイツ語でした。自分で発表しないといけない時は特に苦労したので、これから留学する人にはドイツ語の勉強を早めにしておくことをおすすめします。

―日本とドイツの音楽大学で学ばれた沖澤さんですが、両方の音楽大学において大きく違った点はありましたか?

はい、あります。指揮科で言うと、まずドイツではオペラを指揮できる機会があるいうことです。ベルリンに来てからはオペラを指揮する授業が毎週あって、時々プロの劇場のオーケストラピットに実際に入り、舞台上にいるプロの歌手と実習することもありました。このように実践が多かったことが日本と違う点です。

―学生でもプロのオーケストラや歌手と実際にその場で実習ができるのは、とても貴重な経験ですね。

本当にそうなんです。実際にやってみて心からそう感じました。というのも、プロの指揮者として現場に行ったら絶対に失敗は許されません。ですが学生のうちに色々な失敗を現場でさせてもらえたことは、本当にありがたかったです。

―留学中、大変だったことはありましたか?

食生活ですかね。元々胃腸がそんなに強い方ではないので、ドイツの味の濃い感じが身体に合わず苦労しました。メンザ(ドイツの学生食堂)もあまり美味しいとは言えませんでした。

―では「ドイツ留学」が、今の沖澤さんに大きく役立っていると実感する時はありますか?

はい。色々な方や留学生に出会えたことですね。留学中は自分の人生の中の一番の青春という感じでした。本当に楽しかったですし、未だに学生時代の友人とは連絡を取り合っていてパワーをもらいます。彼らとはすごく「仲間」という意識が強いです。
あとはドイツでよかったなぁと感じることは、日本にいたときは「成功しないといけない」と思っていたんです。コンクールで賞を取ったり、オーケストラに所属したり、上を目指すというのが当然のように刷り込まれていました。でもドイツに来てみて分かったのですが、ドイツは社会の中で芸術が占める重要性が高いため、日本では維持できないようなオーケストラでも、政府の補助金などがあるおかげで維持できています。そうすると、それに付随して音楽関係の仕事も幅広くある。日本ではほんの一握りの人達しか演奏家になれない、という現実に対して、ドイツは必ず自分に合った居場所が見つかると思います。
ご自身の様々な可能性を見つけてみる、といった意味でも、一度日本の外に出て実際に見てみることをおすすめします。外に出てみて海外の良さ、そして日本の良さに改めて気づくかもしれませんしね。

【留学編】のインタビューはここまでとなります。次回は、ドイツでの仕事についてのインタビューです。引き続き沖澤さんの素敵なお人柄と魅力溢れるインタビューになっていますので、どうぞお楽しみに!

(取材・文 : 久保田早紀)

久保田早紀 プロフィール

© Saki Kubota

国立音楽大学附属中学校・高等学校を経て、同大学音楽学部演奏学科卒業、及び鍵盤楽器ソリストコース修了後、渡独。ケルン音楽大学大学院修士課程ソリスト科に入学し、ヤコブ・ロイシュナー教授の元で研鑽を積む。同大学院を最優秀の成績で修了後、デトモルト音楽大学にてさらなる研鑽を積み、2017年ドイツ国家演奏家資格を取得。
第28回ソレイユ音楽コンクールピアノ部門にて第1位、及び音楽現代新人賞を受賞。東京文化会館にて受賞記念コンサートに出演し、ウィーン国立音楽大学夏期国際音楽アカデミー/ウィーン・プラハ・ブダペスト(ISA)に奨学生として招待される。2013年イスキア国際ピアノコンクール(イタリア)にて第1位を受賞の他、国内外のコンクール等で多数受賞。日本学生支援機構(JASSO)より大学在学中の業績を認められ、平成22年度優秀学生顕彰文化・芸術分野奨励賞を受賞。
近年では、ポーランドにてToruń Symphony Orchestraとシューマンのピアノ協奏曲を共演し、好評を博す。また日本のみならず、国内外にてソロ及び室内楽のコンサートにも多数出演。2023年より国立音楽大学ピアノ科非常勤講師。

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