日本では20万人以上の学生がドイツ語を学んでいますが、在日ドイツ企業に就職して苦労して学んだドイツ語を生かせるのは本の一握りの人にすぎません。ドイツ企業はどの程度のドイツ語力を必要とするのでしょう。そもそも日本でドイツ企業に就職することは可能でしょうか。もしできるとしたら、その方法は?

ドイツ企業の代表者を招いて1月22日に早稲田大学で開催されたイベントがこれらの問いに答え、ドイツ語教師にもドイツ語学習者にも共に大きな関心を呼びました。

このような催しに大きな関心が集まることはすでに予想されていました。2015年11月13日DAADはまず、日本独文学会、ドイツ語教育部会、その他の機関および大学関係者と、ドイツ企業関係者を東京のゲーテインスティテュートに招き、「日本のドイツ語・ドイツ文学科卒業生の在日ドイツ企業への就職」について話し合ってもらいました。そこでこの対話の輪をもう少し広げて継続しようということになり、ドイツ語教育部会の主催、DAADの協力のもと1月22日にこの催しを開催するに至りました。早稲田大学で開催されたこの催しには130名を越えるドイツ語教師およびドイツ語学習者からの申し込みがあり、大盛況でした。

清野智昭 ドイツ語教育部会部会長、ウルズラ・トイカ DAAD東京事務所長に続き、マティアス・フォン・ゲーレン ゲーテインスティテュート所長代理が挨拶し、商業ドイツ語コースの紹介をした後、ドイツ企業関係者がプレゼンテーションを行いました。

マークゥス・シュールマン ドイツ商工会議所専務理事が口火をきり、世界90カ国130都市にドイツ商工会議所があり、在外ドイツ企業の窓口となっていること、日本にも一般に思われている以上のドイツ企業があることなどを紹介しました。日本には約450社のドイツ企業があり、その大半がドイツ商工会議所の会員とのことです。ドイツ企業への就職を考えている学生にとってはこの会員名簿が最初の手掛かりになるかもしれません。

次にミヒャエル・シュトルマー ルフトハンザ カーゴAG日本・韓国支社社長がドイツの航空会社の業務を紹介しました。高度なドイツ語力は日本のルフトハンザでは大いに役立つことを強調したうえで、英語力も不可欠で、外国でのインターンシップ経験や長期滞在によりある程度の「国際性」を身につけていることも重視されると述べました。

続いて、ニコラス・ボルツェ ティッセンクルップ・ジャパン株式会社社長(ドイツ商工会議所会頭)が、ドイツ企業における書類選考では海外留学経験が、困難な状況でもやり通す力があると受け止められると述べ、1859年から日本に支社を置いているティッセンクルップは、やる気のある人材を常に求めていると強調しました。

最後に、ダゴベルト・アウテリング BMWジャパン・ファイナンシャルサービス財務部長が、BMW社も国際性のある人材を世界に求めていると付け加えました。重要なのは、転勤を厭わないことだそうです。応募する段階で海外滞在経験があることが望ましい一方で、日本人スタッフも世界中どこへでも転勤できる覚悟がキャリアを積むには必要とのことでした。

終盤のパネルディスカッションで参加者からの質問を受け付けましたが、そこで明らかになったのは、ドイツ企業の応募要項が日本企業のそれとかなり異なるということでした。

たとえば、参加していただいたドイツ企業では日本で一般的に行われている4月1日付の一斉採用はなく、採用は年間を通して行われます。応募に際しては、興味深いインターンの経験、大学外での活動、長期海外滞在などを自己アピールして他を抜きんでることが重要です。ドイツ語力はメリットになりますが、英語力は不可欠です。就職希望者はまずインターンシップを経験するとよいでしょう。当日参加した在日ドイツ企業代表者全員がインターンシップを強く勧めました。多くの企業は半年間のインターンシップを受け付けています。特別な理由がある場合は短期のインターンシップも例外的に可能です。インターンはその会社の業務の一役を担い、自分でプロジェクトを立ち上げることもよくあるそうです。

ニコラス・ボルツェ ティッセンクルップ・ジャパン株式会社社長は、学士や、修士、博士の論文作成にあたり、企業のインターンシップを利用することもできると示唆しました。また、ドイツ企業の場合、採用活動をしていない会社でも自主的に履歴書とモティベーションレターなどを送って採用される可能性もあります。

ただ、ディスカッションのなかで、日本の大学のカリキュラムのなかでは半年間ものインターンシップを行うことは極めて困難であるという意見も出ました。あるドイツ語教員は、学生の多くは在学期間が長くなることで日本企業への就職の機会を逸すると恐れている、と述べました。学生たちは、日本の伝統的な慣習に従って学部卒業後すぐに日本企業に就職する道を選ぶか、あるいは、日本ではまだあまり馴染みのないドイツ企業や国際的な企業への就職をめざすか、岐路に立たされているとも指摘しました。決断は容易ではないでしょうが、この日の在日ドイツ企業関係者のプレゼンテーションが、新たな道への一助になったのではないかと思います。

この催しがこれほど大きな反響を呼んだということは、多くの学生が在日ドイツ企業への就職に関心を抱き、教員たちもそうした学生たちの支援を希望するということを示唆しています。多くが新しい情報だったと感謝の言葉を表してくれた参加者もいました。このイベントがインターンシップやドイツ企業への就職への第一歩になった人もいたことでしょう。その他の人にとっても、日本にあるドイツ企業や国際的な企業での就職の道に光を当てることになったと思います。